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負けの価値

以前、勝ちの価値という記事を書きました。たまたま今日、NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』を見ていたのですが、ゲストが建築家の隈研吾氏で彼は「負ける建築」で有名なんだそうです。なかなか興味深い内容でどうやら、「勝ちの価値」だけでなく、「負けの価値」にも目を向けなくてはいかんなと思った次第です。

「負ける建築」のベースにあるのは、「制約の中にこそクリエイティビティのヒントがある」ということです。環境やクライアントや施工主や周辺住民、様々な制約を現場から吸い上げて反映させることで、プロジェクトが飛躍するというような内容でした。

「制約の中にこそクリエイティビティのヒントがある」ということは非常に同感で、隈氏は「制約がない、予算も納期も土地も無限にあるプロジェクトを任された時にどんな建築をしたいか?」という司会の茂木健一郎氏の質問に、「僕は制約を探しに行く、現場に行けば素敵な制約がきっと見つかる」と答えていました。

これは建築に限らず様々なクリエイティブの仕事に共通する姿勢なのではないかと思います。デザイナーがクライアントをロジックをフル活用して論破したとしても、それは意味がない。むしろ負けて制約を受け入れることで、新たなクリエイティビティの萌芽があるのではないか。これは僕の仕事のスタンスにも多分に共通することではないかと思います。

初めてのお客さんとの初めての仕事の時、僕はお客さんについて何も知りません。紹介を受けてヒアリングをしてブリーフィングをして、と言ったって数回、数週間のお付き合い。そんな状態でクライアントのビジネスにおける機微を完全に自分の感覚でカバーすることは不可能ですし、おこがましい。

ですから、まずはクライアントの感覚に身を委ねて、状況を聞き、意見を聞き、達成用件を組み立て、あらゆる制約を整理した上で、僕の取り得るベストのパフォーマンスということを模索します。最初から100%のものが作れるという自負は、経験豊富な一部の人を除けば、繰り返しになりますが、やはり、おこがましい。

その上で隈氏がスゴイのは、根幹となるコンセプトを貫くこと、常に新しい独創性を模索することであろうかと思います。制約を言い訳にして、しばしばコンセプトを放棄したり、独創性を諦めたりという場面に遭遇します。しかしながら、隈氏の建築のロジックを借りるのであれば、環境やクライアントや施工主や周辺住民には負けても良いわけですが、しかし「自分」には負けてはいけないのですね。

逆に言えば、負けることで制約を受け入れて、その上でプロジェクトを成功させるためには、自分に負けない強靭な精神と確固たる覚悟を以って臨まなければいけないということであろうと思います。

「負けるデザイン」というものがあるとすれば、それは決して妥協の産物ということではなく、いかに我を張らずに我を形作るかということであろうかと思います。ですから、「負けの価値」を考え直すことが、実はクリエイティビティの発露のための一助になるのやも知れません。

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