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世界観が全てを凌駕する瞬間

例えば映画という作品において、キャスティング、スタッフィング、ストーリー、演出、その他もろもろ構成要素はあると思うのですが、一番気持ち良いのはその作品の持つ世界観に没入できた時間なのではないかと思います。

書籍だって同じです。訴えたいメッセージであるとか、ストーリーの奇抜さとかいうことよりも、その著者の言葉を追いながら、その実その著者が描く世界観に肌感覚において自分が馴染んでいくと、文字を読み進める行為自体がとても気持ち良い、ということになります。

秀逸な世界観というのは、ある種「官能的」ということができるやも知れません。

映画はあまり観ない方ですが、宮崎駿氏のアニメというのは、日本人の琴線に触れる、圧倒的で心地良くどこか懐かしい世界観を包含していると思います。僕にとっては『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』のキャラクターや台詞やストーリーに惹かれるのではなく、ただただ宮崎氏が描く世界観に自分が没入していくという感覚が心地良いのです。

寒い日に熱い湯船に浸かり、体の芯がジワジワ火照ってくる感覚に近いかもしれません。

junaidaさんというイラストレーターを知っていますか?京都を中心に活躍されているアーティストだそうで、上野樹里さんのWEBサイトのイラストレーションも手がけておられるそうです。実際の作品をこの目にしたわけではありませんが、WEBで見ている限りでもこの方の作品が非常に素晴らしい。

テーマとかメッセージとか、そういうことではなくて、この方の作品を見ると作り話がしたくなる欲求に駆られます。「メルヘン」という言葉はしばしば「説話」と訳されるようですが、この方の作品を見ると、この作品を題材に、何かとても楽しく愉快で幸せな話を「誰か」に自分が説明できるんじゃないか、そんな気分になりました。

それで今この文章を書いているわけです。

読後感なんて言葉がありますが、気持ちの良い読後感というのはレトリックやキーフレーズよりも、むしろその作品の持つ世界観が他の全てを凌駕する瞬間に生まれ出でるもののような気がします。飲み込まれることに幸せがあるというか。

世界観というのはテクニックだけでは賄いきれない、微細な作業の集積であるように思います。そしてそのためには何よりもまず、丁寧な仕事こそが大事なのではないかと思います。映像も小説も論評も建築だって料理だって、圧倒的なものにはそれを支える丁寧な仕事が潜んでいるように思います。

だから丁寧な仕事は大事なんです。

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