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心の闇

王欣太氏の三国志を題材にした漫画、『蒼天航路』より。

お前という人間を武と智で割れば、きれいに割り切れて残るものがない。おまえたちには心の闇がない。心に闇がない者は圧倒的に強い。しかし俺を破りすべてを奪える人間とは、 俺以上に心の闇を持ち俺を惹きつけてやまぬ人間だ。

主人公の曹操が袁紹軍の文醜に向かって言い放つ台詞です。『蒼天航路』という漫画は、旧来の三国志漫画の世界観から思いっきり跳躍して、人間の性みたいなものを浮き彫りにしている傑作だと思うのですが、僕が特に心に残っているのが「心の闇」という概念の提起です。

これは解釈が非常に難しいのではないかと思うのですが、僕は恥を恥として、罪を罪として、辱めを辱めとして、自分の中に蓄えられているかということが大事で、「心に闇がない者は圧倒的に強い」というのはここ数年のアメリカのブッシュ政権的正義で、「能」にだけ傾倒して厚顔無恥になることへの警鐘なのではないかと捉えています。ちょっと難しい話ですね。

思い悩み苦しむ、ということは人の大いなる営みであって、そういう「駄目さ」とか「陰鬱さ」とか「空虚さ」とか「卑屈さ」とかいうものを、切り捨てることなく受け入れる。満ちる時があれば欠ける時もある、という日本的美意識、日本的価値概念にも繋がってくるのではないかと思います。

勿論、そう言った「心の闇」が愚行を生むという考え方もあると思います。人の醜い部分の発露の結果、通り魔殺人事件や猟奇的殺人事件が起きたりする。でも僕はむしろ、そういうことって「心の闇」を「心の闇」として自分の中に蓄えられる、許容できる力がないからこそ起きるのではないかと思っています。

「心の闇」は言わば半身でしかなくて、「心の光」という光の当たる部分がもう半身です。陰陽道とか道教のタオマークを思い浮かべてください。陰と陽が対称で対であるがゆえに世の理というのは機能する。「心に闇がない者は圧倒的に強い」わけですが、強いだけでは生き抜いてゆけないのが人間ではないでしょうかね。強いだけだから、愚行に走ってしまうのだと考えるわけです。

メディアを通して「事件性のあるニュース」の報道を見ると、そういう人間の性への基本的な理解が違うなという印象を受けます。原因があって環境があって引き金があって事件が起きました、という単純な計算式には成り得ぬものではないかと。

とは言え「心の闇」は決して悪役ではなくて、むしろ人間の存在を人間足らしめるその半身ですから、「心の光」に勝るとも劣らない、大事な何かだとは思うのですが。

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