FREEと所有
Posted on | 2010/1/1 12:04:25
絶賛大ベストセラーになっている『FREE』を読まぬうちからこういう記事を書くのも何なのですが、ある種のカウンターエントリーと言いますか、読む前に考えておきたいことがありましたので、ちと書いています。
さて、塩野七生さんが文藝春秋に「価格破壊に追従しない理由」というのを書いています。
数カ月前のこの誌上に掲載一されていた浜矩子氏の一文『ユニクロ栄えて国滅ぶ』を、興味深く読んだ。なぜなら似たような状況は、イタリアでも起っているからである。ヨーロッパでは今や円安・ドル安・ユーロ高だが、おかげでイタリアでも、高級ブランドの売れ行きが激減した。それまで安定して買ってくれていたアメリカと日本の旅行者が買わなくなったからで、と言ってロシア人と中国人がそれに代わったわけではない。お金を使う経験量が不足しているのか、おカネを充分にかけることによってこそ生れるほんとうの価値、がわかる水準には達していないのである。
勿論、僕は高級ブランド礼賛の人ではなくて、ユニクロ大好きなんですが、塩野さんが何をいわんやとしているのかは気になります。
そして、想像力とは筋肉に似て、使わないと劣化するという性質を持つ。筋肉の劣化を阻止したいがために、人はジムに通うではないか。それも、相当なおカネを使って。ならば、想像力の維持にも役立つショッピングでおカネを使うのも、充分に意味ある投資ではないかと思う。筋肉であろうと想像力であろうと、必要なのは「刺激」なのだから。
ショッピングということは「想像力の維持のための投資」なのであると塩野さんはおっしゃってるわけですが、これデフレへのカウンターになってますかね?なってないと思うんですよね。値段の多寡が想像力の維持ということに必ずしも結び付かない。ユニクロがデフレの象徴みたいになってますけど、これまでも100円ショップやら、ドンキホーテやら出てきて、それはそれぞれの時代の想像力を低価格ながら刺激してきたわけで。
ちょっと青山二郎の話に移りましょう。青山二郎って誰?という方も多いと思うのですが、僕は白洲正子さんのエッセイで知ったのですが、中原中也や小林秀雄とも厚い親交があって、本の装丁やら、骨董の収集やら、民芸の復興やら、文筆業やら、色々やっていた言わば「昭和を代表する数寄者」みたいな人だと僕はとらえているんですが、白洲正子さんの『いまなぜ青山二郎なのか?』などを読んでいるととても面白い。
僕なぞは陶芸に興味が出てきた、などと言っても展示会行って鑑賞するくらいがせいぜいなのですが、数寄者はやはり所有しないといけないらしいのです。しかもコレクションを延々と続けていくような資本がないから(対外、そういう人たちは遊び人の浪費家ですし)、欲しいものを手に入れたら2~3年撫でて愛でて、所有欲が満たされたら、売っ払って、また別の何かを購入すると。青山二郎氏に至っては、有名な壺中居で買った陶器を金も払わずに2~3年持って、俺が2~3年持ったんだから価値は倍以上になってるんだ!と言い放って金も払わずに高い値段で買い取らせた、なんて素っ頓狂エピソードも先述の本には出てきます。
ただ、ここで何が言いたいかと言いますと、何かを手に入れるために何かの犠牲を払う、ということは人の営みとして美しいということです。『鋼の錬金術師』的に言うと「等価交換の法則」です。FREEは素晴らしい、ただ人の営みの美しさという点においてどうなのか、というところに興味があります。
世の中の傾向は「所有しない世界」に向かおうとしている気がします。確かに「シンプル、クリーン、スマート」みたいなことが好まれる世の中です。でも、本当にそれでいいんですかね。「所有」ということは、煩わしさや、面倒くささや、あらゆる意味での責任が伴ってくる、それがゆえに滋味がある、という気がします。だから塩野さんの言うように、ショッピングには「想像力の維持のための投資」としての意味がある、とは僕は思わないのですが、昨日の除夜の鐘で払いきれてないのかもしれないですが、「煩悩」は人間を美しくするスパイスだと思うのですよね。
個人的に「ZEN」は表層的でつまらなくて、「禅」の魅力はむしろ、何かを犠牲に何かを得ていく、その精神修行の過程にあると思うのですよね。「ZEN」は結果にしかフォーカスしていない。
最近、ああ美しいなあと思ったWEBサービスが、Lang 8というネイティブスピーカーによる語学学習のための相互添削サイトです。例えば、日本語を勉強したいフランス人と、フランス語を勉強したい日本人がいて、お互いの作文を添削することによって、お互いが語学レベルを向上させましょうという、割と牧歌的なサービスです。でもこれ実は、すごく相互に大きな責任がかかっていて、それは金銭的なやり取りがない、が故にそれぞれの責任をより一層重くしているのだと思うのだけれども、Win-Winだからハッピーだねということだけでなくて、「何かを手に入れるために何かの犠牲を払う」という行為が知性という分野において行われていて、そういう意味での美しさがあるのではないかと思っています。
FREEだし、所有しない世界だし、シンプルだし、クリーンだし、スマートだし、でも人間が捨ててはいけない煩悩と、それを手に入れるための犠牲と、そこにある人の営みの美しさ、って時代が変わっても忘れてはいけない、人生の大事なエッセンスだと思います。「シンプルで、クリーンで、スマートな人生」なんて、なんだかとってもつまらなそうじゃないですか。


意外と知らない、「ヒトリシゴト」。案外、愉快で、楽しいです。気軽に読める、ビジネスエッセイ。

プランナー、加藤康祐のブログ、kosukekato.com : the idea espressoに掲載したコラム、2006/7/20「歴史は作られている」から2010/5/23「行為が流通するプラットフォームに新しい時代を感じる」を一冊の本にしました。

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